何が私たちを幸せにするのでしょうか? この問いはポジティブ心理学の中心的なトピックであり、特に「どのような行動変容が持続可能な形で人々に幸福感をもたらすのか?」 は、長年議論されてきたテーマです。これを解明するために、Megagon Labsは “ 幸せの含意認識 (Happiness Entailment Recognition) プロトタイプ ” を開発しました。 このモジュールでイベントを記述した入力テキストを分析することで、全体的な幸福度 (Well-being, ウェルビーイング) を向上させる反復可能な活動を決定するのに役立てることができます。
幸せの追求は困難になりうる
何が自分を幸せにするのかを見つけるのは意外と難しいものです。人にはその瞬間の感情を誤って推測する傾向があります。個人の幸福感を育む要因を特定するうえで、特に外部の観察者の後知恵 (Hindsight) は非常に信頼できる指標になります。そのため、自己報告型の評価ツールは、心理学の分野において幸福の理解をする上で、飛躍的な進歩を遂げるのに役立っています。
この成功を受けて、最近導入されたアプローチでは被験者に体験したこと(瞬間と呼ばれることが多い)を短い文章で記録してもらうことを求めています。研究によると、「幸せな瞬間 (happy moments) 」を認識し、感謝の気持ちを表現することで、主観的な幸福感が高まることがわかっています。この利点に加えて、これらの簡潔な日記は感謝と幸福、退屈、不安、さらには抑うつに至るまで、人間の感情の全面に光を当てます。
心理学者はこのテキストを分析し、解釈することによって、幸せな瞬間と不幸な瞬間とを理論的に区別し、その人の幸せに持続的に貢献するパターンを特定することができます。この情報に基づいて個々に合わせた提案をすることは、長い間、メンタルヘルスの専門家の領域でした。昨今では非常に多くの人々がメンタルヘルス専門家に頼るようになっています。残念ながら、世界中で専門家の数は不足しており、助言が必要と思われる全ての人々がこのような専門家を利用できるわけではありません。
幸せの定義とは?
この拡大する問題に対処するため、Megagon Labsは幸福感 (well-being) を高める提案を生成することで、専門家による支援を補完することができるAIシステムを開発しました。しかし、この問題を解決するには1つの難問に答えなければなりません。幸せとは何か?
明らかに、このトピックに対しては無数の解釈の余地があります。このソリューションを汎用性の高いものにするために、私たちはこの質問を可能な限り一般的に解釈したいと考えました。その一方で、私たちの成功を有意義に測定するために十分な特異性を維持したいと考えました。幸せな瞬間に関する情報が与えられた時、このシステムは他の活動が個人の幸せに貢献する可能性がどれだけあるか推測することができるか?そして、この分布を活動の全範囲に対してモデル化することができるか?以下が、私たちが幸せの含意と呼んでいるものです。
Probability(activity X making the subject happy | their recorded happy moment Y)
確率(主語を幸せにする ’活動 X’ | 記録された’幸せな瞬間 Y’)
私たちは、幸せな瞬間にはそれぞれ、その瞬間を繰り返すために抽出可能で提案可能な活動が含まれていると仮定しました。被暗示性に対して適用した2つの主な条件は次のとおりです。
- 再現性:対象となる活動は時間と労力に無理のない形で繰り返すことができる。
- 持続可能性:対象となる活動を繰り返すことは、長期的に不利益な影響を受けることなく、短期的に個人の幸福感を高める。
水泳や公園でのウォーキングは、これらの条件の両方を満たす活動の例です。対照的に、子犬の里親になることや新車の購入などのイベントは、持続的に繰り返すことが可能ではないため、これらの要件を満たしません。
幸せの含意認識モデルの紹介
この2つの被暗示的なルールがあれば、自動化されたシステムは、個人の短いテキストからの情報を使用って次の2つのタスクを達成することができるはずです。
- 持続可能な活動の提案を発見する。
- どの提案が個人にとって意味のあるものなのかを見極める。
最初のステップは、提案候補を手動で作成するか、HappyDBのようなコーパスから自動的にフィルタリングします。( HappyDBは、クラウドソースから得た10万規模の幸せな瞬間テキストを含むデータベース) 理想的には、心理学者のような領域の専門家がこれらの持続可能な提案を作成することを手助けしてくれるでしょう。また、個人が置かれている環境や、過去に記録された幸せな瞬間など、ユーザーに関する情報に基づいた提案も可能でしょう。
幸せの含意認識モジュールは、この2番目のタスクに対応します。この作業は、自然言語理解(NLU)の一分野であるテキスト・エンテイルメント (RTE) における認識の問題から着想を得ています。ユーザーが報告した一連の幸せな瞬間のセットと、一連の活動提案のデータが与えられた場合、どちらの活動がユーザーを幸せにする可能性があるでしょうか?
幸せの含意認識モジュールの仕組み
幸福含意認識モジュールは、NLUタスクの標準である、デュアルエンコーダ(DE)モデルとして実装されたニューラルネットワークです。共通のエンコーダーが次の2つの入力値を受け取ります。
- イベント(幸せな瞬間)を記述した短いテキスト
- 持続可能な提案の候補
次に、このモジュールはイベントの説明に基づいて、提案の内容が 良い (entailment) または悪い (non-entailment) かの予測を出力します。これらの判断の一部を考慮することで、何がユーザーを幸せにするのかについて、より明確なイメージを持つことができます。
提案がユーザーを幸せにするかどうかを評価することは、幸せな瞬間と提案内容との関係を理解するための常識と推論の両方に依存します。たとえば、ユーザーが髪の毛を切ることを幸せな瞬間として報告していた場合、「ネイルをして」が適切な提案として機能するかもしれません。これらは両方とも美容の活動であるため、学習モデルがこれらの活動の表現の類似を学ぶ可能性があるからです。しかし、ユーザーの幸せな瞬間が肖像画を描くこと示している場合、この推薦は無関係になります。
図:システムの概要。ユーザーが入力した幸せな瞬間のインプット情報に基づいて、最も適切なフォローアップ活動を出力します。
幸せの含意認識モジュールを学習するためにデータセットを作成しました。その中の各サンプルには、幸せな瞬間、持続可能な活動の提案、そして各ペアに対するラベルが含まれています。最初のコンポーネントでは、HappyDBから幸せな瞬間をフィルタリングしました。そこから、これらの文の動詞に基づいてクラスタを作成し、36個の提案を作成しました。その後、Amazon Mechanical Turk (MTurk)を利用して、クラウドソーシングによるアノテーションを行いました。
いかがでしたか? Happiness Entailment: Generating Sustainable Suggestions for Better Well-Beingのサマリーを日本語でお届けしました。Happiness Entailment Recognition Moduleの検証結果や展望についてはMegagon Labs 英語ブログでお楽しみください!
(翻訳:Megagon Labs Tokyo)